聖徳大学 文学部 図書館情報コース 片山ゼミ:佐々希星、篠宮麻咲、中山那月、橋本結奈、長谷川優奈、福島早紀子、藤原綾、古川緒望、文道由美、松尾佳奈、宮田莉花、片山ふみ

概要:本研究では、子どもが自発的に繰り返し読みたがる絵本にはどのような共通性があるのかを、インタビュー調査、アンケート調査、内容分析を通して明らかにしようとしました。この共同研究の成果を発表します。

1. 研究目的
   子どもが自発的に繰り返し読む絵本の傾向を把握する。

2.先行研究と本研究の立ち位置
 類似するテーマの先行研究では、絵本を提供する大人の意識や影響、大人に選ばれる絵本について分析する手法が主流である。子どもが自発的に読みたがる絵本や、なぜその絵本をくりかえし読みたがるのかについては着目していない。よって、本研究は次の点で新規性をもつ。

  • 子どもが自発的に読みたがる絵本に着目する
  • なぜくりかえすのかに着目する
  • 繰り返し読まれる絵本の特徴に着目する

3.研究方法
 インタビュー調査、アンケート調査、内容分析の次の3つの調査を実施した。本研究は、繰り返す読む理由について、本の特徴に着目して明らかにしようとするものである。そのため、「繰り返す」行為がどの程度の頻度なのか、また、どのような理由が考えられるのかなどの基本的な大枠をつかんだ後(インタビュー調査)、「繰り返し読まれる絵本」を特定し(アンケート調査)、その絵本を分析した(内容分析)。

4. 調査結果
4.1 インタビュー調査
 インタビュー調査の目的は、アンケート項目の選定のためである。機縁法でサンプリングした未就学児の子どもをもつ保護者3名に調査し、子どもが自発的に繰り返し読みたがった(読みたがっている)本のタイトル、読みたがった時期、繰り返しの頻度、気に入っていた箇所について調査した。表1に示すような結果が得られた。

表1:繰り返し読みたがった本とその理由

 インタビューによって、次の事柄が分かった。
 ・繰り返し読むという場合、1週間以上、毎日せがむ傾向がある
 ・年齢によってハマるポイント、ハマり方は違う可能性がある
 ・気に入る理由には以下のものが考えられる
   -全体の絵の雰囲気
   -ストーリー
   -特定のシーン(特定のページの絵を含む)
   -特定のセリフ
   -文章のリズム
   -読み手とのやりとり
   -その他

4.2 アンケート調査
 
4,1の結果をもとに、子どもが自発的に繰り返し読む絵本を特定する目的でアンケート調査を実施した。アンケート概要は以下の通りである。

 調査方法:SNSを利用したwebアンケート(Googleフォーム)
 調査期間:2023年7月19日(水)~8月16日(水) 
 調査対象:SNSを利用する全年代のうち、
3歳~5歳の間に絵本を繰り返し読んだことのある方

 調査内容:子どものころを振り返ってもらい、自分が繰り返し読みたがった絵本と繰り返し読んでいた時期、繰り返しの頻度、どこにはまっていたのかなどを調査した。子どものころおかれていた読書環境によって、何等かの影響をうける可能性を考慮し、自宅にあった絵本の蔵書量などについても調査した。
 有効回答数:117

4.2.1 年齢によるハマるポイントの違い
図1のように年齢によってハマる箇所は異なることがわかった。


図1:気に入っていた時期ごとの気に入っていたポイント

年少、年中、年長に分けて、気に入っていたとされる個所上位3に着目すると、絵の雰囲気やストーリーはどの年代にも支持されるが、3位では、年少は文章のリズム、年中は、特定のシーン、年長は特定のセリフとポイントは変化していく。

表2:気に入っていた箇所上位3

 発達段階によって読書能力や読書興味は変化することを踏まえると、違いが出るというのは、ある意味自明であるが、上位1、2は年齢を問わず共通して絵の雰囲気とストーリーであったことは、絵本の魅力の基本要素はやはり絵とストーリーにあるということを裏付けるものであるといえる。3位に着目すると、年少は、文章のリズムを楽しみ、年中は特定のお気に入りのシーンを見出し、年長は特定のセリフを気に入るという違いがみられる。文章のリズムは、繰り返しの表現やオノマトペといった絵本そのものに備わる特徴を楽しんでいると推察される。年中のあげた「特定のシーン」は、インタビュー調査の事例にもあったように、読者が感じる特定のドキドキわくわくするシーンであったり(表1、2-1)、読者がみつけた面白い解釈であったり(表2、1-1、1-2)と、読み方に起因する理由である。このように年齢が上がるにつれて、絵本そのものに備わった魅力だけでなく、読み手の読みや解釈に起因する気に入り方に広がっていく可能性が示された。

 また、図2に示すように、年齢があがるにつれて、気に入るポイントは個性化していくという点も指摘できる。

図2:年齢による気に入るポイント

4.2.2 繰り返し読む期間と気に入るポイントの違い

 「繰り返し読んでいた」と実感できる期間は1週間以上である可能性が、事前のインタビューで示唆されたが、この可能性を踏まえて、1週間以上繰り返し読んだ場合と、それよりも短い場合に分けて比較したところ、1週間以上繰り返し読んだ場合には、子どもたちが面白いと感じる視点が変わっていくということがわかった(図3)。

 

図3:繰り返し読む期間による気に入るポイント

4.3 内容分析
 アンケート調査で複数の人から繰り返し読んだとされたタイトル24点(表3)についてどのような傾向があるかを明らかにする目的で内容分析を行った。

表3: 実際に繰り返し読まれた絵本

タイトル

タイトル

『くれよんのくろくん』

『すてきな三にん組』

『そらまめくんとめだかのこ』 

『ぐるんぱのようちえん』

『そらまめくんのベッド』

『100万回生きたねこ』

『ティモシーとサラ ちいさな図書館』

『しろいうさぎとくろいうさぎ』

『からすのパン屋さん』

『しろくまちゃんのほっとけーき』

『ねないこ だれだ』

『おしいれのぼうけん』

『ぐりとぐら』

『もりのへなそうる』

『てぶくろをかいに』

『はらぺこあおむし』

『ネズミ君のチョッキ』

『ごろりん ごろん ごろろろろ』

『はじめてのおつかい』

『かっこ からんこ からりんこん』

『ちびくろ・さんぼ』

『地獄』

『ふまんがあります』

『とこちゃんはどこ』

4.3.1 内容分析
 文責の観点として、以下の点を採用した。「絵の印象」という項目は、主観的な基準となるため、実際に本研究にかかわった12名が絵本を確認したうえで、最終判断を行った。

  • 絵:画材
  • 絵の色合い:暖色・寒色、原色・間色
  • 絵の印象
  • 繰り返しいう特定のセリフの有無
  • 繰り返しのシーンの有無 
  • 語り方(三人称、二人称、一人称)
  • テーマ
  • シーン
  • 仕掛けの有無
  • 主人公(人間、動物、その他)
  • 描かれる時間帯
  • 主人公の喜怒哀楽の変化
  • オノマトペの有無
  • 起承転結の有無
  • 非日常が描かれるか否か

以下では、主要な結果を説明する。

❶ 絵の印象

絵の印象としては、明るく、かわらしく、カラフルなものが多かった(図4)。その一方で、多くの子どもたちが気に入るポイントではないものの、リアル、怖い、暗いなどの対照的なものも挙がった。


 図4:繰り返し読まれる絵本の絵の印象

 

また絵は温かみのある、暖色がつかわれることが多いことがわかった(図5)。


 図5:繰り返し読めれる絵本の絵の色合い

ストーリー
 ストーリーについては、起承転結がしっかりしており、主人公の喜怒哀楽が描かれているものが多いといえる。このことから、子どもたちが主人公に自分を投影させて物語を楽しんでいる様子がうかがえる。


 図6:繰り返し読まれる絵本のストーリー

❸その他
 絵やストーリーのほか、オノマトペがあるものが多い、主人公は動物が多い、描かれる時間帯は昼か夜が多い、三人称形式が圧倒的に多いなどの結果が得られた。

5.おわりに

本研究で明らかになった繰り返し読まれる絵本の特徴は、大人が良書とする絵本の特徴と類似性が見られる。本研究では繰り返し読む時期を未就学時期に設定して調査を実施したが、特に絵本を購入時点から選ぶことが少ないと考えられる3歳未満児については、本当に子どもが最初から繰り返し読みたがった本なのか。親などの大人が選んだものの中から繰り返し読んだだけにすぎないのか、について分けて考えることができなかった。今後は、いかに大人のフィルターを外して気に入る(繰り返し読む)絵本を特定できるかが課題となる。
 本研究では、
年齢が上がるにつれて、絵本そのものに備わった魅力だけでなく、読み手の読みや解釈に起因する気に入り方に広がっていく可能性や、繰り返し読む期間の長さによって子どもたちが面白いと感じる視点が変わっていくという点、が明らかとなり、こうした知見は本研究の新規性といえる。しかしながら、繰り返し読まれる絵本にはある程度の傾向は認められるものの、この要素を備えていたら確実というような要素は存在しない。これは、ランガナタンの図書館の五法則のひとつ“Every book its reader.”を証明する結果ともいえる。
 今後、調査方法を精緻化し、改めてこの課題に取り組んでみたい。

CRediTにおける各著者の貢献内容
 Conceptualization:篠宮麻咲
 Visualization(サムネイル・ポスターデザイン):橋本結奈

 Investigation,Formal analysis, Data curation:佐々希星、篠宮麻咲、中山那月、橋本結奈、長谷川優奈、福島早紀子、藤原綾、古川緒望、文道由美、松尾佳奈、宮田莉花、片山ふみ
 Supervision, Project administration, Writing – original draft, Writing – review & editing:片山ふみ

参考(会場で掲示したポスター)

 

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担当者
片山ふみ
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katayama@wa.seitoku.ac.jp